「松岡良倫氏とプロダクトデザインについて語る」開催レポート
皆様、こんにちは。6月のギークサロンはPalmのプロダクトデザイナー松岡良倫さんにホストしていただきました。
以下は吉田順さんによるレポートです。マインドマップ付きです!
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こんにちは。吉田と申します。
06/12 に JTPA ギークサロン「松岡良倫氏とプロダクトデザインについて語る」に参加しました。
そのときのレポートをお送りします。
松岡良倫さん ( ニックネーム: Yomi ) は今年 06/06 に発売されたばかりの Palm Pre で筐体デザインを担当された方です。
Palm Pre はこれまでとはかなりデザインの異なるアメリカ向け携帯電話。2007 年の iPhone 発売で大きく変わった Smartphone 市場の中でも、iPhone に続いて Smartphone の可能性を広げることが期待されています。
大きな液晶画面に加えて、iPhone にない以下の機能が特長として挙げられます。
* マルチタスク OS => 複数のアプリケーションを同時に立ち上げられます
* QWERTY キーボード => iPhone があえて無くしたキーボードですが、やはり求めるユーザも多いキーボードを備えています
これらの特徴に加えて松岡さんが強調なさっていたのは、「有機的なデザイン」。iPhone も含めて、これまでの Smartphone はサイズが大きく、形は長方形。これらを耳にあてて会話をしている様子は、端から見ると手帳を顔に押しつけてるみたいだ、と松岡さんは思ってました。もっと手や顔になじむ、もちやすい Smartphone とはどんな形だろうと思案。結論は「卵形」でした。
黒色ボディの Palm Pre の筐体は丸みを帯びています。イメージとしてはマウスを縦にしたような、背面に少しふくらみを感じる手触りです。本体を縦にスライドさせて QWERTY キーボードを出すと、真下ではなく少し手前にせり出すようになってます。このせり出し方は「カーブドスライダー」と呼ばれています。
特長:
* 曲面状になるので、通話時に顔の形にフィットする
* テキスト入力時にはキーボードが手前に出て、自然な姿勢での入力ができる
* 大きさが iPhone より一回り小さく、丸みが手のひらにフィットするので、多くの操作が片手で可能
上記の使いやすさに加えて、松岡さんは製品としての美しさも追求します。
* スライド時に現れる本体背面からスライドレールやねじ隠しを取り払い、きれいな鏡面にしました
Palm 社がこれまで扱っていた Smartphone はスライダーのない「キャンディバー」方式。そこで初のスライダー製品を開発し、なおかつ、他社でも見られない上記の洗練された特徴を作り上げた松岡さんのお話は、ユーモアに溢れた、とても楽しいお話でした。
松岡さんの経歴:
伊豆の下田で育った松岡さんは幼少のころから自然に親しみ、ご両親からは創造性を育まれたそうです。
* 外にでるときはクレヨンと紙を持ち歩き、なんでもデッサン
* このときの作品はご両親が額に入れてすぐに飾ってくれました
* お父様が海洋学者で、海の生き物のことを教えてくれる
* テレビはあえて見せない
また、お父様はソニー製品のファンで、製品が家に溢れていたそうです。
松岡さんはこれらの製品を触りながら、なぜこういう形なのか、どういう機能があるのかを自然と考えるようになりました。
高校のときに交換留学でアメリカに一年滞在した松岡さんは当地が気に入り、そのまま残ることを決断。
大学の専攻では海洋学者になるかデザイナーになるかで迷いましたが、海洋学者にはいつでもなれると、デザイナーを選択。
RISD ( Rhode Island School of Design ) で Industrial Design を学びます。
この学校には Nature Lab と呼ばれる施設があります。
図書館で本を借りるように、ここでは動物の剥製や模型などデザインの対象を借りることができます。
松岡さんはここで製品の模型 ( モック ) を作りながら製品をデザインしていく方法を学びました。
また、隣の Brown 大学と交換クラスがあり、医学クラスでは医学生が解剖した人間の遺体をデザインすることもできました。
自分が追求したいものを熱心に勉強する松岡さんの姿勢がここでも見られます。
就職進路では、以下のように考えます。
* 車や建築のデザイナー: かっこいいけど、自分主導でしごとを進められるまで何年もかかる
* アーティスト: かっこいいけど、金銭的に苦労する
* 家具のデザイナー: 若いうちから現場の職人として働ける
大学時代の先生にも誘われて、システムキッチンの家具をデザインするしごとを始めます。
アメリカでは家を建てるときに自分たちの好きな家具を作るように注文することが多いため、家具職人としてのしごとは楽しかったそうです。
アメリカ滞在のビザが切れるタイミングで、次の進路を思案。
在学中に趣味で車や照明器具、家具などのモックを作っていた経験を活かし、ソニーが開催していた国際イベント学生デザインコンペに応募。
何度か佳作賞を取り、それを認められてソニーに入社し、日本へ戻りました。
ソニーでは家電製品のデザインを担当。
ここで松岡さんは美しさだけでなく、使いやすさも考慮したデザインを実践します。
たとえば MD Player。CD 認識がない時代の MD Player ではユーザが曲名を自分で一文字ずつ入力していました。ステレオの前面に垂直についてたボタンを押のは面倒です。松岡さんはこのコントローラ部分が前面にせり出すようにして、ユーザが入力しやすいようにしました。
Palm Pre のせり出すキーボードにも通じる発想ですね。
日本で数年働いたのち、イギリスの Sony UK に転籍します。
日本人向けとは違う、ヨーロッパ人向けのデザインを担当しました。
ここでも製品の使いやすさを追求します。
たとえば携帯用ラジオ。工場員のひとたちは仕事中にラジオを腰につけていますが、手元を見なくてもすばやく操作できるように、ボタンを指の形に合わせました。
あるいは老人向けラジオでは、寝たきりでも操作できるように、ボタンを上面にもってきました。
このときはこれまでの前面ボタンからの変更に反対の声もありましたが、周囲を説得して実現したそうです。
松岡さんのつかいやすさへの追求、また、良いと思ったら周囲を説得して実現する実行力に感心しました。
ソニーで自分のしたいことを済ませた松岡さんは、2004 年につぎの就職先として Palm を選びます。理由は以下です。
* ソニーは大企業なので、次は規模が小さい会社が良い
* 日本の会社で働いたので、海外の会社が良い
Palm は Smartphone のパイオニアとして Palm Treo を売り出していました。
ただ、Treo を見た松岡さんの感想は、ボタンがいっぱいついていてあまり美しくない、というもの。
最初に担当した製品は Palm Treo の廉価版 Centro。
廉価版と言ってもデザインには妥協せず、パームの伝統であるフレンドリーなデザインを目指しました。
2007 年には iPhone が発表されました。
この製品は Smartphone 市場の有り様を変えました。
* 大きな液晶画面
* デザインを重視した製品
* キャリアよりも端末メーカが強い
松岡さんも新しい Smartphone 開発の動機に駆られ、Palm Pre となる製品の開発が始まります。
折しも Palm には新 CEO として Jon Rubinstein が参加します。
彼は元 Apple で iPod の成功に尽力しました。
「"Ruby" ( Jon Rubinstein の略称 ) は決断が早く、これまでの会議は何だったのかと思わせるほどでした」と松岡さんも感心します。
Jon Rubinstein の後押しもあって Palm Pre は完成。
冒頭に述べたような特徴をもって、06/06 に発売されました。
松岡さんのデザインに対する考え:
講演を聞いてはっきりと分かることは以下です。
* ご自身のしごとである「製品デザイン」を愛していらっしゃること
* その追求のために多くの勉強をしていらっしゃること
* そして勉強もしごともを楽しんでいらっしゃること
松岡さんは「デザインは引き算」とおっしゃいます。
飾りのための飾りや、流行のものを取り込むのではなく、機能として必要な物だけを足していく。そこに自分なりのひねりを加えれば、製品は "Instant Classic" に成り得ます。
"Instant Classic" とはこれがスタンダードになると世に出た瞬間に分かるほど完成度の高いもの。iPhone が良い例です。
良いものを作るにはインプットが重要と松岡さんは述べます。
* 普段からものに触り、なぜ良いのかを考える
** 例: マンホールの蓋はなぜ丸い?
* 若いうちから良いものに触れる
** 海外に出かける
** ミシュランガイドに沿ってレストランに行くなら、三つ星から行く
* 美術館は見に行くのではなく、創造意欲をもらいに行く
* 小さなお店でもおもしろい展示をしているものがあるから、見逃さない
世の中のよくできたものを勉強し、自分の製品にもそのようなひらめきを反映させようと日々錬磨している松岡さんにとって、しごとは楽しみです。
アメリカには "TGIF ( Thank God, It's Friday )" という言葉があります。
早く金曜日になって週末になって欲しいと願う言葉ですが、松岡さんは不思議に思います。「そんなにしごとがつまらないの?」
松岡さんにとっては、自分が好きなものを追求することが、たまたま「しごと」と呼ばれているだけなのかも知れません。
「いつまでも現場で働く職人でありたい」とおっしゃる松岡さんの新製品であるPalm Pre がこれから人々にどのような影響を与えていくのかが楽しみになる、そしてもっと松岡さんの製品を見たいと思える、そんな講演でした。



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