「小池良次氏とクラウド(騒動)について語る」開催レポート
みなさま、こんにちは。8月14日に開催しましたJTPAセミナー「小池良次氏とクラウド(騒動)について語る」--書籍「クラウド」にまつわる四方山話--のレポートをお送りします。
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■ 自己紹介
今回は書籍「クラウド」の四方山話を中心にしてみたいとおもいます。
僕は「ITジャーナリスト」という肩書きで、フリーランスを20年ぐらいやっています。情報通信系でフリーランスでやっている人は製品のレビューをやっている人が多く、ちゃんと執筆だけで十分な収入を得ているひとはたぶん10名もいないと思います。アメリカにいるフリーランスは3~4人程度でしょう。
ぼくも単に記事書いてるだけではとても食べていけません。企業へのレポートや委託調査、コンサルティングなどをしています。
日頃、お付き合いのある日本企業や団体の方々には1年半ぐらい前から「クラウドが来る」と言っていました。そんななか2008年7月に出版の話が動きだし、今年の3月に書籍『クラウド』を発売しました。
■ 書籍『クラウド』出版まで
最初にこのテーマを持ちかけた出版社は情報通信分野に疎く、クラウドという書籍の企画を理解してもらえませんでした。今回出版したインプレス(出版元)さんはさすがに理解して頂いたのですが、それでも「グーグルの次世代戦略」いう企画で始まりました。クラウドは時期尚早という判断でした。
そして原稿の3章ぐらい書いたところで、世間でもクラウド・ブームが始まり、出版社さんと話して「クラウド」という書名になりました。そういう経緯なので本の前半はグーグル中心の話題になってます。
執筆中に、石田晴久先生(東大の計算機センターを立ち上げ、日本におけるインターネットの父として有名)と久しぶりにお会いできる機会がありました。サンマテオで食事を一緒にしたのですが、開口一番「グーグルのご飯は言われていた程、美味しく無いなぁ」と冗談を仰っていたことを思い出します。
その際、クラウドの本を執筆しているとお話し、その後メールで書評をお願いしたところ、快く引き受けて頂けました。
実はそのころ「どこか本の初めの方でクラウドの定義を書かないといけないのではないか」と編集者と私の間で議論が始まっていました。僕の本では、クラウドの定義が後半にならないと出てこないので「読者に親切ではない」と編集者が心配したのです。ところが、石田先生が書評で「クラウドはデータセンターに超集中すると同時に、ディバイスでは超分散がおこる」と書いていただきました。まさにこれがクラウドの本質で、最初の部分にある石田先生の書評を読んでもらえば「クラウドの定義は必要ない」と編集者も僕も喜んだものです。
出版後、書評のお礼を述べようと日本に行ったのですが、東京についたら石田先生が入院されていたと知人から連絡を受け、その後すぐにお亡くなりになったとのメールを受け取りました。それは日曜が月曜ぐらいの話で、その木曜にお会いしてお礼を述べる予定だっただけに大きなショックでした。結局、私の本に書いて頂いた書評がまるで遺稿になってしまい....この本は僕にとって思い出深いものとなりました。
ところで、この本を出すときに編集者と決めたことは「不況の時に、暗い話はやめよう。明るい内容にしよう...」ということです。
たとえば、本の表紙デザインですが、最初は赤い空などだったのですが,色々と編集者の方が配慮していただき、青空に浮かぶ空から光が差すデザインになりました。この明るいデザインは出版社の話によれば「書棚に並べると照明を反射して店内が明るくなる」と本屋さんには好評でした。
読者の動きには、季節の波があります。長い休みが終わると読者の皆さんにはリセットタイムがきます。たとえば正月休みやゴールデンウィークなど、長い休みに読みたいと思っていた本、好きな本を読みます。休みが終わると休みの前に目にしていた本は古く感じ、新しく出版された本を皆さんが探されます。僕の場合3月出版でしたから、ゴールデンウィークがリセットタイム。それが終わると売れなくなるかな...と思っていましたが、有り難いことにまだ売れています。
本の執筆は、私の息抜きです。雑誌や新聞への寄稿は、様式や長さ、テーマなどの制約もあり、好きなようには書けません。その点、書籍は自由に書けるので好きです。
私は根っからの文系で、エンジニアではありません。一般に、私のようなタイプをトレンド系ジャーナリストと呼びます。技術やビジネス・モデルを追うのですが、読者の対象は経営幹部や事業企画にいる方々が主体ですね。一方、多いのはプロダクト系の記者さんです。このタイプは新製品の情報を追っています。ですから、今回の『クラウド』を私は産業構造論として書きました。
■ 急速に進むクラウド業界
ところで、クラウドは新しい分野なので、先端を追っている人とそうでない人で、知識や認識の差が大きくなっていると思います。シリコンバレー内でもかなり差がある様に感じています。
先日サンフランシスコで開催されたクラウドワールドという展示会に行ったのですが、あるセッションで、参加者の方がクラウドをよく理解していて、講師自身が突っ込まれて、数回に渡って立ち往生する場面に出くわしました。
それほどクラウドは変化が激しく、対象の範囲も広い。全てを追っかけることはできません。調べるたびに企業やサービスが増えているし、一生懸命深追いしても追いつけないことが多くあります。
ちなみに僕はクラウドの業界図を作っていますが、ここ6ヶ月で何回も書きかえを続けています。現在はVersion 3.0です。調べるたびに新しい企業が参入していて、全体を見極めるのが非常に大変です。現在使っている業界図は、UC Santa Barbaraの先生が作った図をベースに、僕が通信系を加えたものです。通信系はクラウドでは非常に大事な部分ですが、あまり議論されていないし、クラウドの業界図に全く含まれていないケースも多いのです。しかし、クラウドでは通信がボトルネックになっています。
■ 日本での受け止め方
本のなかで、一番注目を集めたのは「日本にソフトウエア産業はない」という一節でした。
日本にはマイクロソフトやオラクルのような世界に通用するソフトウェア会社はありません。日本の産業界はどうしてもハードが中心でソフトはおまけという位置づけになっています。そうした方々にとって「物作り」とはハードウェアの世界です。
執筆段階で「日本にはソフトウェア産業が存在しない」という話題を書いたら編集担当者からの反対にあいました。しかし、あえて大雑把に言えば、日本は米国の家電産業を潰し、米国は日本のソフトウェア産業をつぶしたわけです。本の内容が暗くなるし、そこを深くは書けなかった。いろいろやり取りをした末に「日本にはソフトウェア産業が存在しない」という一節は残しました。
日本の政府関係者は流行に敏感で、霞ヶ関の方はクラウドに気づくのが早かったです。本が出るまえから、つまり昨年の暮れぐらいには色々な官庁の方から「クラウドについて説明してください」と声をかけられました。いつのまにか霞ヶ関クラウドも走り始めましたね。一方、本家米国のGSA((General Services Administration、米連邦政府一般調達局)のフェデラル・クラウドはスケールが大きいですね。
最近はクラウドの講演を頼まれることが多くなりました。大体20~30人、多い場合では300人ぐらいを相手に講演をする事があります。
クラウドは、分散コンピューティング、ネットワーク・コンピューティングという、ここ10年ぐらいの大きな波にのって出てきたものです。しかし、講演に行くとまるで「降って湧いてきた」かの如く、突然の話のように受け止められるかたが多いです。
また、iPhoneとクラウドが結びつくということも理解されていないことが多いです。iPhoneというハードウェアの中にはアプリケーションとコンテンツからなるエコシステムがあるのですが、それが見えてないで単に電話機と勘違いする。そこで、たった1機種で何百万台も売れた理由がわからないのです。
iPhoneのような身近な製品を通じて、ハードとソフト、そしてその後ろを支えるコンテンツとネットワーク、データセンタの関係が解らないと、クラウドつまり「脱パソコンの世界」が理解できないと思います。
講演で一生懸命説明して解っていただいても、残念ながら、すぐにハード中心の考え方にいつの間にか戻ってきてしまっているようです。今の日本を見るとソフトウエアに奥行きが無いし、これを立て直すには10年がかりで取り組まないといけないでしょう。
今の産業構造がハードに偏りすぎて、残念ながら日本にはプログラムの基盤を支える人、つまりアーキテクトレベルの研究者・開発者がいない状態です。
ハードが強いとはいえ、これからの日本企業は組み立て技術だけでは戦えないのではないかと感じます。クラウドを契機に、もっとソフトウェアの世界に力を入れて欲しいと感じています。
(本文は忠実な書き起こし記録ではありません。山本顕範さんによる講演録をベースに加筆や修正、削除を加えて読みやすくしました。 2009年9月 小池 良次)
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