スタンフォードの大学院で勉強なさっている二人に実際の授業の様子やスタンフォードの学生の日常生活など、本ではなかなか触れられないお話をしていただきました。日本との違いとしてどのような授業が行われているのか、またその授業に対し、学生がどのような意識でどれだけの時間を費やして参加しているのか、ということに関してもお話いただきました(インタビュー日: 2002年6月16日)


プロファイル
畑中 元秀: スタンフォード大学大学院生
・1977年生まれ東京都出身
・87年から92年にかけてスイス、ジュネーヴ在住
・99年東京大学工学部卒
・2001年米国スタンフォード大学大学院工学部修士課程修了
・現在同校博士課程在学
佐野 直人: スタンフォード大学大学院生
・長岡高専電気工学科卒
・長岡技術科学大学電気電子システム工学卒
・長岡技術科学大学大学院電子機器工学修了
・ウシオ電機 システム事業部勤務(4年)主に半導体製造装置の開発・設計に従事
・Stanford University, Department of Electrical Engineering 在学中(社内留学制度にて留学中)
佐藤 真治: 技術コンサルタント/JTPA
・早稲田大学修士課程機械工学科卒業後、中部電力、三菱総合研究所を経てスタンフォード大学留学
・現在は、バイオインフォマティクス関連の技術コンサルタントとして活躍
インタビュー
Q:スタンフォード大学に来るまでの経緯に関してお話していただきたいのですが?
佐野: 私は日本の大学で電気工学のマスターをとった後、4年間日本の企業で働いて、その会社からこっちに来ています。ちょうど一年です。
Q:同じ専門で2度マスターを取ろうとした理由は?
佐野: 日本では電気工学だったのですが、基本的には材料系だったんです。純粋に電気というのをあまりやっていなかったんです。ただ、仕事では主に半導体製造装置の設計をやっていたので電気・通信や、そのプロセスの知識が必要になりました。
Q:日本人はスタンフォードのこの学科に多いのですか?
佐野: 230人中6人で少なめですね。会社から来ているのがそのうち5人。私費できているのは1人です。
Q:畑中さんは自費でいらっしゃっているのですか?
畑中: 3年位前に東大機械学科の学部を卒業して、その時点でスタンフォードは受かっていたのですが、東大に半年だけ行って、それからこっちに来ました。機械工学で一年ほど前に、マスターを取って、今ドクターコースです。学費は初めの一学期は自分で出して、その後は、リサーチアシスタントでお金をもらって学費と生活費をもらっています。
Q:初めは自費ということですがいくらくらいかかるのですか?
畑中: 授業料8,500ドルくらい+生活費3,000ドルが1学期で、年にそれが3回あります。
Q:リサーチアシスタントは日本でもありますが、学費も生活費もでるほどはいただけないのですが、こちらでは違うのですか?
畑中: スタンフォードは学部学生が極端に少なくて大学院生の方が多いです。それでシステム的には、大学の運営費のうち学費から出ているのは2割、3割くらいで他は寄付とかなんです。だから学部学生、修士はお金を払う人が多くて、ドクターからお金を貰えるのが一般的です。基本的にはマスターのリサーチアシスタントはあまり貰えないです。
佐野: 電気工学やコンピュータサイエンスといった学部では世界中の会社からビジティングの研究生を受け入れているのですが、そういうところから共同研究費という感じでお金をとってきたりするようです。そのお金で先生は学生を雇うこともできます。
Q:スタンフォードをお選びになった理由はあるのですか?
畑中: MITとバークレーも受けたのですが、ここしか受からなかったからです(笑)。
佐野: 僕はもう少したくさん受けて、他にも何校か受かりました。でも他に受かったところはPhDコースでの受け入れであったり、滑り止めだったり。僕は会社の都合でPhDコースのように、終わりが見えないところには行きづらいので、マスターになってしまうのです。まぁ名前とか気候で選んだところもありますけど。
畑中: まじめな話をすると、実際スタンフォードが第一希望だったのです。気候が良いですし。機械の授業でプロジェクトベースの授業が多くて、プロジェクトベースというのは理論を聞くだけでなく、作ってみて体験して学ぶ、ということをたくさんやっている大学だったのでそういったところが面白そうだと思いました。
Q:授業の形式、というのはどのようなものなのですか?
佐野: 基本的な授業の形式は一週間に150分。例えば3ユニットの授業だったら50分*3になります。ユニットというのは授業の時間を決めている単位で、150分を3ユニットで取るものもあれば、2ユニットで取るものもあります。
Q:そのためには授業以外にどれくらいの勉強が必要なのですか?
佐野: 実際に、プロジェクトが入る授業だと、それに費やす時間は週に10~20時間くらい。重いものだともう少しですが、大体その位ですね。授業の時間はそのプロジェクトの質問をしたり、補足をしたりする時間という感じで、もちろんレクチャーもきちんとするのですが、基本的にはプロジェクトベースです。最終的にこれをやりたいというのがまずあって、そのために何をするかを自分で決めていってという形です。
Q:その150分の授業を一週間に何コマとらないといけないのですか?
佐野: それは自由です。電気工学だとマスターでトータル45単位。学期毎に最低9単位とらないといけないので3コマですね。一つが3単位なので。ゆっくりめの人は、毎学期9単位とって5学期かけて卒業です。早く取りたい人は、一学期15単位とって3学期で卒業する人もいますね。相当大変ですけど。
Q:20時間*5って大変ですよね?
佐藤: 最低週60時間は使わないといけないので本当に大変です。だからあまり授業をとりすぎると、宿題で手一杯で、あまり自分がやりたいことを追求する時間がなくなってしまいます。こういうことを勉強したい、と思う時間もなくて、常に宿題に追われていることになります。でも2年目は楽になります。どのくらいの力の入れ方が良いかが分かるようになりますし。
Q:それプラス、マスター論文も書くのですか?
佐藤: マスター論文を要求しないところが多いです。学部にもよりますが、マスターだと基本的には研究室で生徒を受け入れないところが多いです。

Q:PhDに関しては平均はどのくらいですか?
佐藤: 4年くらいでしょうか。でも8年やっている人もいるし、10年やっている人もいます。電気学科だといきなりPhDに入れるコースはなくて、まずマスターに入って、入った一年後にqualification testがあって、それに通るとPhDコースにいけます。でもそのテストを受ける資格は2回までしかなくて、2回落ちるとPhDコースには絶対に行けないんです。
学科によってはいきなりPhDに行けるところもあるけれど、そこは逆にマスターとの連続性がないから改めてアプライしないといけないです。
畑中: 機械は電気と少し違って、マスターが終わったあと、仮進学して、仮進学した後2年の間にqualification testを受けるシステムです。
Q:日本だとPhDを取ることはアカデミックな世界に行くことを示すのに対して、アメリカでPhDが当たり前と聞くのですが・・・。
畑中: マスターだけ取って出るという人がここは多いです。それは会社から来ている人が多いからですね。あと方向転換するために1年で取りに来る人とかはここで転換して次に行ったりとか。中国人とかはマスターをやっている間にチャンスを掴んでいますね。アメリカ人でPhDに行く人はこの分野に興味がある人です。韓国人だとPhDを取らないで帰ると何をしに行ったんだ、となるからみんな行きます。
人によって求めているものが違うので。知を求める人、お金を求める人。PhDだからといってアカデミックな世界に行く、というわけでもないし。PhD持って社長の人もいるし。日本だとPhD持っていると就職できない、という面があるけれど、ここでは持っていたほうが専門職につきやすい面もある。サイエンティストと呼ばれたかったら、必ず必要ですね。
Q:プロジェクトというのは具体的にはどういうものがあるのですか?
佐野: 例えば今学期やったものだと、一つは論理合成の授業なのですが、デコーダーを言語で設計して、最終的にはそのLSIの配置配線するところまで、だからツールにすると4つか5つのツールを使えるところまで、というのが一つありました。
もう一つは航空宇宙の授業で、空き缶の中に電子回路とかセンサーとかをいれて、飛行機からパラシュートで落として基地局とデータの交信をするというもの。コントロールに使うメインの回路基板は与えられるのですが、センサーを何にのせるかを自分で決め、周辺回路用の基板は自分で作っていきました。
最終的にほとんど何も教えてくれなかったです。全部自分で。分からないところがあればアシスタントに聞くんだけど、聞かれるほうも分からなかったり、この人に聞いてみたら?とかここを調べてみたら?とか言われて。あと、先生の知り合いの航空宇宙業界をリタイアした人がアドバイスしに来ていたりとかしていました。
Q:プロジェクトというのはチームでやるものなのですか?
佐野: 科目によりますね。2人とか3人でやるものもあるし、1人でやるものもあるし。大きくて4人くらいでしょうか。
Q:全部プロジェクトというわけではないのですよね?
佐野: 普通にレクチャーで宿題があって、テストというのもありますが、なんらかのプロジェクトはあります。
畑中: プロジェクトといっても実際にハードウェアをつくったりソフトウェアを作ってみたり、というのもあるし、解析してみるものもあります。あとはプロジェクトをやるためだけの授業もあるし、理論をやっていてその理解のためにプロジェクトをやるものもあります。例えば、2年位前の材料工学の授業で、橋がどのくらいの強さか、というのがあって、日本だと理論を勉強して終わりですよね?でもこっちだと実際に橋を作ってみて、一番強い橋を作った人が勝ち、とかそういった形です。
Q:学部の授業もこのような感じなのですか?
畑中: プロジェクトが多いです。
佐藤: 考えさせるものが多い。日本もプロジェクトのような授業もあるのですが、考えさせない。これやってこれやってこれやる、と決まってるんですよ。モチベーションがあがらないものが多く、教える側もルーティンワーク化しています。
畑中: 東大の機械にいるとき、エンジンを作る授業があって、でも設計図はもう全部決まってるんです。だから機械加工の練習にはなる、という感じですね。最近は設計も自分でやるようになったみたいですけど。
Q:日本の学生と比べてレベルはどうなのですか?
佐藤: 学部によって違いますけど、計算なんかもう覚えてるかのように出てくる人もいるし、なんでそんな2桁も3桁もある計算ができるの?という人もいます。ただ、アメリカ人はすごく優秀な人とそうでない人に分かれる気がします。すごくできる人はなんでもすごくよくできる、でもそうでない人は平均かそれ以下くらいというのが私の中の印象です。
留学生はその間くらいで、平均かそれ以上。もちろん留学生にもすごく優秀な人はたくさんいるし、一概には言えないんですが。ただ,インド人はアメリカ人っぽいかな。ふたつに対極化されている気がします。ものすごくレベル幅が広いのがアメリカ人とインド人という気がします。
Q:同じ勉強をしてきているのにそれはなぜですか?
佐藤: スタンフォードは特に多様性にこだわるからだと思います。スタンフォードは学部からそのまま上に上がる人が少ないんです。極端にバランスが悪くなるのを嫌うんです。いろんな人が交わることがいいこと、となっている。だからスロットが決まっていて、調整されている。
Q:学生の間にインターンシップに行くという話をよく聞くのですが、それは一般的なことなのですか?
佐野: 必ずではないけれど、行く人が多いです。
Q:それは企業からオファーが来るのですか?
佐野: 自分で探さないといけないです。
Q:どういう所で探すのですか?
佐藤: 大きい企業は学校に毎年、正式に募集をしに来ていますね。小さいところだとウェブで広告したりしています。
畑中: あと、プロジェクトの授業の先生宛に、いい生徒を教えてくれ、と言いにいったりもしているみたいです。
佐藤: プロジェクトのスポンサーについてその間にいい学生を引き抜いたり、ということもあります。
Q:インターンシップで求められるものはどんなことですか?
佐野: ある程度の専門性は求められて、入ったら、こういうことをやってもらいたいけれど、できるか?という面接をされるみたいです。
Q:会社がプロジェクトのスポンサーとさっきおっしゃっていたのですが、プロジェクトでは実践に基づいたかなり専門的なことをやる、ということですか?
佐野: そのプロジェクトでやったものを基にして事業を興こしたという例も何件か知っています。企業も学生のアイデアをもらったり、学生も自分の独創的なアイデアを提案したりします。
畑中: 会社がスポンサーとしてお金を出す理由はいい人材が見つかるかもしれない、ということと、もしかしたら会社人間には出てこない独創的な発想があるかもしれない、ということにありますね。あと、知識と経験豊かな先生のアドバイスが貰えることもメリットです。普通にコンサルタントのように先生に相談するとお金かかりますし、間接的にですけど、先生とも話しができたりするのもメリットだと思います。
Q:研究環境は日本と比べてどうですか?
畑中: 秋葉原がなくて困りますね。研究環境はこっちが絶対的にいいわけではないと思います。こっちではスポンサーがしっかり決まっているプロジェクトが多いです。今私がやっているプロジェクトは2つあって、両方とも軍関係のものです。海軍からのとスパイ衛星のと。そういうものだと、何を研究してくれ、こういう結果が欲しい、というのがはっきりしていて、学問的にこういうのに興味がある、というのがあったとしてもわき道にはずれられません。
言われたことをきちんとやらないといけない。それをしないとお金が切られてしまうかもしれなくて、お金が切られてしまうと次の年度から研究が打ち切りになってしまう。そうするとまた次のプロジェクトを探さなくていけなくて研究がやり直しになる。そういう面で研究の自由さで制約があります。良し悪しですね。
佐野: そうやってスポンサーの制約があると、なかなか思い切ったこともできないし、最終的に結果を出さないといけないですしね。逆に日本だといつまでにこれだけ結果を出さなくてはいけない、という制約が少ない分、自由に研究できるのかもしれません。ただ、それは難しいところで、逆に、自由すぎるとだんだん手抜きになってしまうところもある。アメリカみたいに結果を出し続けないといけないところだとプッシュし続ける良さはあります。
畑中: あとスポンサーつきのプロジェクトだと、5年のプロジェクトで前の学生が3年で卒業してしまったら、誰かが引き継がないといけない。日本だと興味を持つ人がいなかったら、引き継がなくていいですよね。その分、中途半端にはなりますが。
Q:こちらのほうが資金的には潤沢ということはあるのですか?
畑中: 学生としては生活費が出るという点では助かります。
佐藤: 先生は学生の生活費も出さないといけないから、純粋にすべてを研究に使えるわけではないです。日本とアメリカで研究に使える資金が違うか?って聞かれると、違いはない気がしますね。やはりスタンフォードでもお金ないですし。
Q:授業のお話を聞いていると理論より実用的な授業というイメージですが・・・。
畑中: 理論よりの授業もありますが、やはり実践的な授業が多いです。
佐野: 特に電気系だとシリコンバレーの真ん中にあるという感じがあるので、私のイメージだとスタンフォード、特にマスターは大学というよりも高等職業訓練所です。卒業したらシリコンバレーで働ける、そのスキルを大学でつける、というイメージです。それが良いか悪いかは別として。日本だと企業に入ってから訓練して、というイメージですが、こちらはそういうのはないですね。使えない人を雇うほど余裕はないから。だからこそ給料がいいのかもしれないですけど。
Q:こちらではエンジニアで学位をとった後、MBAをとる方が多いと聞いているのですが、エンジニアのキャリアパスとしてどういうパターンがあるのですか?
畑中: 学部出て、MBAというのが確かにけっこういます。MBAをとった後は経営者になっていく、というのはひとつのエリートコースとしてあります。
佐藤: でももうそういう人はたくさんいるからおもしろくもなんともないですけどね。昔はそういう人が少なかったから価値があった。技術とビジネスが両方分かる人が少なかったから、その人に頼る人が多かったけれど、それがもう今は一般的になってしまった。
Q:みなさんは今後のプランはお持ちですか?
畑中: 僕は卒業したら、ここら辺で3、4年働いて、その後、別の場所で3、4年働いて、日本に戻ります。そうしたらもう10年くらい先の話なので、どうなるか分からないけれど、大学で働いてもいいし、企業で働いてもいいし。あまり専門ぎゅうぎゅうという感じではないですが。
佐野: 帰国後は元の会社に戻って、しばらくは元の仕事をすることになると思います。でも10年先か20年先になるかは分かりませんが、いつかは自分で会社を興してみたいです。夢ですが。
Q:それはここでですか?
佐野: いえ、日本で。特に場所にこだわりは無いんですが。あと1年大学にいるので、その間に経営工学の授業などもとるつもりです。
Q:語学の問題はなかったですか?
佐野: 学部によると思います。
畑中: ビジネススクールでは、授業中に色々と話さないといけない場面が多いようです。みんなで議論する場で発言して、人を説得させることはむずかしいし、でもそういうことをしないと点数がこないんです。
Q:工学系の授業ではどうですか?
畑中: 僕は帰国子女なので。
佐野: 僕は純粋に日本人なのですが、授業出るぐらいなら大丈夫だと思います。予習とかしておけば授業には問題なくついていけます。そういう事前準備をしないといけない、という点で大変ですけどね。
畑中: プロジェクトの話合いの時、アメリカ人は第二外国語の人を考慮してくれないからちょっと大変だったりすることもあります。
佐野: スタンフォードは夏に留学生向けの英語のプログラムがあるので、それを取っていたので、その間に英語に慣れました。
Q:日常生活でこまることはなかったですか?
佐野: 食事がまずいというのが少し。ただ、日本のスーパーとかもあるので。
畑中: あとは、交通の便が悪いことでしょうか。車がないと本当に何もできないです。
佐野: 公共サービスのレベルが低いような気がします。窓口にいる人のサービスレベルが低いですね。
畑中: 郵便局もひどくて、待ち時間もすごいのですが、郵便局の人が郵便荷物の中身をとっていたりとかもあるみたいですし。
佐野: ドライバーズライセンスもね。ドライバーズライセンスはお役所仕事だからとてもおそいんです。
畑中: ドライバーズライセンスは身分証明書になるからなかなか発行したがらないんです。
佐藤: あと交渉が多いのが嫌ですね。相手を押し切ったりとかがなかなかできなくて。あと電話もいやですね。
Q:これからスタンフォードなどに来たいと思っている学生にメッセージをいただけないでしょうか?
畑中: アメリカは世界中から色々な人が憧れてくる所なのですが、変な所もたくさんある国で、そこら辺をきちんと認識してから来て欲しいです。自分の国がどんな所なのか、どこが良くてどこが悪いのか、世界で他にどんな国があるのか、ということをしっかりと認識し、アメリカかぶれになって欲しくはないです。
もちろんいい所もたくさんあるのですが、悪い所もあって、その両方をわかった状態で来て欲しいですね。例えば、こっちでは女性が働きやすいというメリットがある一面、離婚率はとても高いんです。離婚率が高いということは悲しむ子供もたくさんいるわけで。陰にある歪も見て欲しいです。
佐野: 日本とアメリカと両方の大学院を見てきたのですが、アメリカでしかできないことというのはそんなにないと思います。学生がもっと高いモチベーションを持ってやれば日本の大学でももっと色々なことができると思います。でもアメリカにしかできない研究とかもあると思うので、そこらへんをよく見極めて来れば、留学すること自体の壁はそれほど高くないと思います。
畑中: 研究レベルで言えば決して日本が低いわけではないです。むしろ高い部分もあるわけで。ただひとつ違う点は色々な国の人がいて色々な考えの人がいる点です。そういうところで国際人としての体験をする、というのはメリットかもしれません。
私がアメリカ人の一番嫌いなところは世界を知らないところです。ここでよく言われるジョークは二ヶ国語しゃべれるひとはバイリンガル、三ヶ国語しゃべれる人はトライリンガル、ひとつしかしゃべれない人はアメリカ人、といいます。言葉の面にしても文化の面にしてもアメリカ人は外に興味を持っていない人が多い。アメリカが一番だ、という人が多いです。周りに気配りができるようにならないと、アメリカのように傲慢になってしまう。一番になりたいのなら、外に眼をむけて、外を認められる人間になることが必要だと思います。

インタビュアー感想 :石戸 奈々子

今、まさに大学院で勉強なさっているお二方に授業の様子など、実際にインタビューをしたから得られた貴重な情報をいただきました。日本では大学をモラトリアムの期間としてすごしてしまう方が多いような気がします。それと比較して、大学を自分のキャリアパスの一つとしてとらえ、真剣に考え、取り組んでいるスタンフォード大学生の意識の高さを痛感しました。 大学の仕組み、学生の意識ともにもう一度見直す必要性を感じました。