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海部美知氏セミナー「通信からみたネット世界」開催レポート
7月18日金曜日午後7時
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通信関係専門のコンサルタントであり「パラダイス鎖国」を執筆された海部美知氏をお招きしセミナーを開催しました。

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以下は 松内良介氏によるレポートです。
■キャリアとネットサービス事業者
GoogleやAmazonのようなネットサービス事業者の成功により、通信キャリアは「土管」(dumb pipe) の地位に追いやられてしまうのではないかという懸念がある。 土管 = 競争によりARPUが低い = ビジネスの成長性が描けない、であるので通信キャリア各社は土管にならないための展望を描くのに懸命。
そんな中、7/18の講演は、通信キャリアのこれまでの歴史を俯瞰しながら、今後の展望について考察するという主旨でした。


■10年周期説
海部氏は、これまでのテレコム・通信業界には約10年の周期があると述べる (参考: 海部氏の以前のKDDI総研寄稿レポート: http://d.hatena.ne.jp/michikaifu/20071114)。
1985-1994年ごろ(好況-停滞): 光ファイバーの実用化を背景とし、1984年AT&T分割、BT民営化、1985年NTT民営化。好況の後 1990年代前半は、静かな停滞期 (米国では長距離電話値上がり傾向)
1995-2004年ごろ(好況-停滞): DWDM実用化によるテレコムバブルと時期を同じくして爆発的なインターネットブーム。 バックボーン能力は急激に増大したが需要が追いつかず2000年ごろバブル崩壊。 キャリアは業績不振に陥り、低迷期。
2005-現在(好況): アメリカでのブロードバンドの世帯普及率が半分を超え、Web 2.0 ブーム。 需給のバランスが正常に近づき、キャリアの業績も回復基調。
現在(2008年)は、増大するネットワーク需要にたいしてキャリア側の供給がやや追いついていない状態。 現在のキャリアの多くは通信速度10Gbps の技術に依存しているが、2010年ごろに100Gbit技術が普及し、移行が完了するだろうと言われている。
■モバイル
通信キャリアにとっては、「土管(dumb pipe)化」を推し進めるGoogle/Amazonのようなネットサービス、「ただ乗り」と見えるP2Pサービス(BitTorrent) / 帯域を消費するYouTube のようなサービスは、ビジネス上の「脅威」と映る。
しかしモバイル、WiFiのビジネスは、無線周波数帯域という (比較的希少な) 資源を必要とするため、キャリアにとっては「土管化があまり進んでいない (=収益を上げやすい)」ビジネス領域。そのためキャリアにとってはモバイル、WiFiへの戦略的な投資は収益基盤の確保のため非常に重要。
■収益基盤と今後の展望
現状、ネットサービス事業者と通信キャリア事業者のあいだの役割分担は、自動車業界の「車メーカー」と「鉄メーカー」のようなきれいな分業にはなっておらず、微妙に利害が一致したり対立したりする構造になっている。
たとえばGoogle (代表的なネットサービス事業者) は思想的にネットの中立性を主張しているが、いっぽうで自社で大規模な通信/データセンター設備を建設して自社サービスのみ世界中で快適に使えるというような環境を構築しようともしているように見える。 言っていることとやっていることに乖離があるのでは。
一般に現在のWeb 2.0系ネットサービス事業者の多くは広告収益に依存している。 これに対し、今後普及するであろうクラウド・コンピューティング技術 (Amazon EC2, Google App Engineなど) は従量課金が中心になりそう。 クラウド・コンピューティングの普及は、通信キャリアとネットサービス事業者のあいだの関係にも影響するのではないか。
次の通信キャリア業界の大きな節目は、100Gbit技術が実用化/普及する 2010 年ごろ (次の10年周期) にあるかもしれないが、全般的には これまでのような華々しい変化は起こらない時期が とうぶん続きそう。
そのような収益構造/役割関係の変化のなか、通信キャリア事業者は今後、ネットサービス事業者に対しては「優秀な土管」として共存共栄を図っていくであろう。
■質疑応答
Q: iPhoneの影響?
A: 現状、iPhoneはAT&Tのモバイル通信事業の収益向上に大きく貢献しているが、iPhoneのような利用方法は通信キャリアにとっては「土管化」をおしすすめるものであり、通信キャリア業界では「AT&Tがご乱心なされたのか」という懸念もある。 長期的にはモバイル業界が土管化していくことは ありうるが、それには時間がかかるだろう。
Q: 日本ではキャリアがデータセンターも運営する例が目立つが、米国ではそうではないのか。
A: 米国では通信キャリア事業者とデータセンター事業者(Colocation Service) はそれぞれ別の事業領域であり、別会社が担当するのが通常。 しかし Level 3 のように、通信キャリアでありながら Colocation Serviceも提供している会社もある。
■報告者コメント
私自身の現在の仕事がモバイル向けのネットサービス事業であることから、通信キャリア事業者のことは関連が深いながらも なかなか事情がわからなかったのですが、今回の海部氏のお話は非常に役に立つお話でした。 ありがとうございました。