みなさん、こんにちは。
畑野浩氏による、先日の渡辺千賀氏のセミナーのレポートをお送りします。
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このレポートでは、公開されているストリーミングやスライドにはなるべくないような内容を報告したいと思います。開催会場で渡辺氏が直接語ったことやなるべく参加者の反応が大きかったことをレポーターになりきって書いてみます。


まず、渡辺氏が簡単なあいさつをしたあと、「最近、周りから仕事されているんですかなんていわれます」と。そこで会場からはちょっと笑いがもれました。渡辺氏はその質問に対して、「ブログだけではお金にはならないが、本業はちゃんとしていますよ。」と。それを受けて会場からどっと笑いがでました。続いて、今日のセミナーの主題は「どちらかというと日本の起業家たちがシリコンバレーで少しでも成功の確率とあげる方法について話をする」とのことでした。渡辺氏の考えが随所に語られました。セミナーは①アメリカでの起業の基礎知識、②日本に住む日本人が起業する場合、③日本のベンチャーが米国進出する場合について内容の濃い発表と活発な質疑応答がありました。
【アメリカでの起業の基本的知識】
会社はデラウェア州で設立をする。これは投資家に取って有利なルールがあるためで、かなり多くの設立が行われている。いわゆるベンチャー・キャピタリストというのは投資の定型パターンに沿った「保守的」な人たちであること。なんでもかんでも投資するわけではない。一方でベンチャー・キャピタリストが投資をしたベンチャーが成長をしない場合にはそれなりの対策を講ずる。ベンチャーは株式公開に向けてシリーズ(ラウンド)で行われ、それがIPOに向けての定型パターンになっており、日本のようにあっちからこっちから時期を決めずに増資するような非定型ではない点が特徴。個人が投資するエンジェル投資では、だれでもが投資できるとなるとトラブルが多発することにもなるのSECの規定でAccredited Investorとなる人たちが投資をするようになっている。(それ以外の人が投資してもよいが、後にトラブルになることもありえるので、慎重に行う)。エンジェルには二つのタイプがあり、90年代に登場したタイプの人たちと、それ以降に登場したタイプがいる。前者はグループになっていることも多く、10グループほどがある。後者の代表格としてはRon Conway氏がいる。ベンチャーキャピタル、エンジェルとも別に、Incubatorもある。Incubatorは学校型とオフィス型があり、基本的には起業の仕方を指南するのに加え、投資家とアントレプレナーが出会う場所を提供するのだが、まれに授業料もとったりしている。オフィス型のPlug and Playなどは、もともとじゅうたん屋とオフィス賃貸をしていた会社がはじめた。VCは、ひつじの群れのようなメンタリティーで定型パターンで投資する人たちであり、日本からいきなりきた企業にVCが投資するということはほとんどない。株式とストックオプションは定型パターンによってIPOにいたるまで計画的に増資されていき、公開時には1株15ドル程度になるように発行数が調整される。では、なぜ日本のベンチャーが成功した事例がほとんどないのかというと、起業数が圧倒時に少ないから。起業後30社中、29社がうまくいけないというベンチャーの現状もあり、数がなければ成功事例はほとんどない。
【日本に住む日本人が起業する場合】
しなやかパターンと剛直パターンがある。しなやかパターンは、理系の大学院等に留学後、アップルなどの大企業に就職し、ベンチャーへの転職を経て起業する。英語力も大切だが、まずVISA(H1-B)の取得が先決。これがなかなかたいへんである。レイオフされて失業すれば、すぐにでも次の仕事を探さなければならない。そしてグリーンカードを取得する。グリーンカードを取得できればレイオフされてもすぐに仕事を探さなくてもよい。人的ネットワーク、英語力、そして起業の基礎知識が問われるがなんといっても人的ネットワークが重要。剛直パターンは、学校なんか行きたくない、就職するのも嫌だ、なんとしても最初から起業したい人。異論もあると思うが、いきなりシリコンバレーで起業するのではなく、日本で立ち上げてあるところまでは日本で育てた方が良い。技術と市場の知識を得て、製品をつくり、トラクションを得るところまでは日本でおこなう。なるべくならここで英語圏向け、アメリカ向けの製品のトラクションを作る。ここまでできてから、はじめて米国に進出すべき。「アメリカに行けばアメリカがわかる」というのは幻想に過ぎない。日本でわからないのなら来てもわからない。
【日本のベンチャーが米国進出する場合】
起業は、デラウェア州での設立がお勧めだが、日本でまずは事業を始める場合、いきなりデラウェア、というのもアメリカの税金の問題もあってハードルが高い。将来どこの国で事業を展開して行くか不確実な場合はケイマンがよいだろう。
シリコンバレーでの人材の確保は、まず魅力的なビジネスであること。さらに資金力をもって、ストックオプションを提供して「フェラーリ級」の人材を高額の年収で確保する。進出の際は、以下の3パターン。
①やることが決まっている場合は、いい人を雇うのが先決で、トップから雇う。そうすると芋ずる式にひとが集まる。つまり、自分の上司を雇う。ただ、フェラーリ級のトップ人材をどうコントロールするかが課題で、ゴーカートのように走らせてもうまくいかない。1年先の売上目標を定め、フェラーリで突っ走ってもらって、それが達成されないときは、去ってもらう。それだけの報酬を用意する。ただ、フェラーリ級の人材がいれば必ず上手くいく訳ではないのは当然。
②アメリカ進出に際しかなり事業内容を変更しなければならない場合には、複数に投資してノウハウを学ぶ。
③そもそも何を事業としていいかわからない場合には、片っ端から人に会う。競合、補完事業を行う企業、そうした会社に投資する人たちなど、ありとあらゆる人たちを洗い出してあう。
・セミナーを終えて
発表の内容も濃く、活発な質疑応答があり、予定時間を大幅に超えたものの大変有意義なセミナーでした。ベンチャーが成功するかどうかはだれにもわからない。成功するのがわかっているのなら、だれでもやる。なんとなくアメリカに行けば成功するというのは、失敗するケースがほとんど。日本の大企業がリスクの多い事業をゼロからスタートする場合は失敗が多い。ただシリコンバレーでは、リスクはあるもののやらないよりはやったほうがいい。そういう空気があると何度も日本で聞いた。アメリカ人は仕事に関してはなにをやりたいかを常に問いかけている。日本の大手企業のサラリーマンにとっては起業は非現実的だ。反してシリコンバレーでは起業することはそれほど非現実的ではない。まさに、それを考えている人の方が多いということ。日本のサラリーマンは、あまりやりたいことは何かとは会社で問われない。そういうところに長くいるとあまりやりたいことがなくなってくる。しかし、ここシリコンバレーにいると、日本人でも自然にやりたいことがなにかといつも問われている。そんな空気に浸っているとベンチャーをやってみたくなる。失敗が多いのは事実だが、そういう環境があたりまえのようであることを肌で感じた。もともと日本の大企業も昔は、ベンチャーであった。ベンチャーが成功して規模が大きくなったにすぎない。ただ今の大企業では、アントレプレーナーシップが少なく、職場で何をやりたいかを問われない。それがいいか悪いかは別としてどこに身をおくかを決めるのは本人次第である。参加者は、VISAを持ち、グリーンカードをもって、前向きに働くシリコンバレー・スピリッツのある日本人ばかりであった。日本の大企業からたまたま出席した自分にとっては、起業をうけいれる空気の中で青い空を見上げながらいつもとは違った気持ちでこのレポートを仕上げた。