IMCA America Executive Director 八木博氏「開放系と閉鎖系」
八木さんは、駐在員として米国で働いていた時に、自由な雰囲気のシリコンバレーが気に入り、この地に暮らすことを決意しました。永住権を取得後、現在はIMCAのExecutive Directorとして、米国と日本を活発に行き来して活躍しています。イリヤ・ブリゴジンの「非平衡の熱力学」の理論を応用してシリコンバレーを「開放系」と表現する八木さんに、その視点を「開放系と閉鎖系」と題して綴っていただきました。


「開放系と閉鎖系」 - 八木博
私が学生の頃に習った科目に熱力学というのがあった。(もちろん今でもあると思うけれど) この時に学んだことで、一番印象深いのは「熱力学第二法則」と呼ばれる「エントロピーは増大する」というところでした。すなわち、(閉鎖系では)エントロピーはひたすら増大を続け、究極的に極大化してすべてが同質な「静かな死の世界」へと向かうというものでした。これは、現在の私にとってはとても気にかかる言葉の連続です。閉鎖系、同質化、死の世界・・・ 現在の日本の社会が置かれている状況そのもののように写るからです。これは本当に大問題なのです。
ところが、1977年にイリヤ・ブリゴジンが「非平衡の熱力学」でノーベル賞をとったのですが、この発見のきっかけは、何故世の中には秩序があり、新しいものが生まれるということが起こるのかという観点から、開放系では、エントロピー極大化は起こらず、小さなきっかけを元にして、「自己組織化」が起こる。いわば、エントロピーの法則の逆が起こるということを発見したからです。我々人間としての生命体も外からエネルギーを取り入れて自己組織化に使いながら生命活動を続けています。私は、このことこそ、これから生きる上で重要なことだと思うし、これをいかに経済や社会の仕組みに取り入れてゆくかということで、世界中は競争しているようにも見えます。
私がシリコンバレーに住みたかった理由で一番大きいのは「開放系」だと思えたからです。開放系ということを情報にあてはめて考えれば、情報ネットワークになるし、組織として考えればコラボレーションというしくみで呼べます。そして、「自己組織化」の核となる動きがあればそれを支えるインフラもあるということで、こんなにあらゆる試みが行え、検証し、具現化できる場所は世界中そんなに無いし、気候は良いし、アジア人は多いし、というところが大変な魅力だったわけです。この、「開放系」こそ日本の硬直化した仕組みを変えてゆく大きな枠組みのひとつだと思います。枠組みの中(閉鎖系)にはもはや解決策は無いだろうと私は思います。ではどうしたら良いのか、ということで「開放系」を具体的に考えましょうと、提案したいと思うのです。そうすれば、「自己組織化」が起こるということが、すでに「わかっている」のです。もちろん個人の意思や、ビジョンなど当然重要ですが、方向と評価を誤らなければ、自己組織化に任せれば良いのではないか、と思うのです。これは、受け入れる前提はかなり抵抗があるとしても、今まで何かをやり遂げた人たちは、実感としてわかっていることだと私は思います。その証拠に「思いは実現する」という言葉があると、私は理解してます。
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八木博
プロフィール
東京大学工学部、工業化学科卒業。東京大学工学系大学院修了、工学博士。三菱化成(株)(現三菱化学(株))入社。ハードディスク開発に従事, MOディスク開発・製造、そして世界で最初に発売。IMCA America Inc入社、現在CEO & President。NPOパワードエイジ協会理事。ライフビジョン学会理事。専門分野は有機合成化学、バイオ、ナノテク、IT分野の産業活性化支援と、人材育成支援(共同事業)。複雑系ロジックと東洋思想を融合した新経営哲学の構築に、ネットワーク構築による個人活性化支援と社会のQOLの向上支援。